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7年越しの願いが叶う:”Ma Rainey’s Black Bottom”レビュー


「あーーこの作品が観たい。あの俳優さんが観たい!」

 

と念じていると意外と叶ってしまうようで(笑)

 

先日、7年間ずっと観たかった作品、アフリカ系アメリカ人劇作家オーガスト・ウィルソンによる”Ma Rainey’s Black Bottom”をNational Theatreで観てきました。

 

私がこの作品と初めて出会ったのは大学3年生のころ。アメリカ演劇ゼミに所属していた時、毎週生徒が交代で作品についての議論をまとめて発表するのですが、たまたま私が担当したのがこの作品でした。

その後卒論でも、このMa Raineyを違う角度から論じました。

そして昨年、大学院受験のためのサンプルエッセイも、この作品について書きました。

本当にちょうど1年前、卒論の内容を4000語にまとめることができず、一から分析しなおして書き上げたのを覚えています。

 

合計3回論文にしたわけですが、恥ずかしいことにYou Tubeで作品の一部を観ただけで、一度も上演作品を観たことがありませんでした。

それがなんと!家から徒歩圏内の劇場で上演されることに。

オーガスト・ウィルソンは他にも名作をたくさん残しているのに、その中からMa Raineyを選んでくれたNational Theatre(以下NT)に感謝です。

ちなみに劇場の中にある本屋さんはオーガスト・ウィルソン祭り☆

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物語の設定は1920年代のシカゴ、某レコーディングスタジオ。
ブルースの母と言われるMa Rainey(実在した人物です)のレコーディングが予定されていましたが、本人がなかなか現れません。
2階にあるコントロール・ブースには白人プロデューサーとマネージャー。1階はレコーディングスタジオ、地下がバンドの控室兼リハーサル室。Ma Raineyのバンドメンバーである4人の黒人ミュージシャン(Cutler, Toledo, Slow Drag, Levee)の地下室でのやりとりを中心に物語が進みます。
一番若手のLeveeは「ブルースなんて古い!今はアップテンポなスウィングの時代だ!」とMa Raineyの曲を勝手にアレンジしたり、白人プロデューサーに取り入って自分の楽曲・バンドでデビューすることを目論んでいます。
約束の時間に大幅に遅れ、甥のSylvesterとガールフレンドのDussie Maeを連れてやってきたMa Rainey。コーラがないから歌わない、契約書にサインしたくない、と散々ゴネますが、何とかレコーディングは終了。しかし反抗的なLeveeはMa Raineyに解雇されます。
これで自分のバンドが組めると意気揚々のLeveeですが、「これではデビューは無理だ」とプロデューサーに態度を覆されます。さらに買ったばかりのLeveeの靴を、Toledoがうっかり踏んでしまいます。激高したLeveeがToledoを刺殺したところで、物語は終わります。

 

台本だけ読んだときは、Leveeを身勝手なやつだと思っていましたが、NT版では野心溢れた魅力的な(ルックス的にも!)若者でした。

もっとバンドメンバーに対して斜に構えたようなイメージでした。特に第一幕ではバンド仲間と楽しそうに会話していて、解雇後の孤立したLeveeとの違いがくっきりと出ていました。

子供のころ白人のギャングに家族を殺され、自らも重症を負った過去を持つLevee。白人を利用してのし上がろうとしましたが、結局白人への復讐どころか仲間の黒人を殺してしまう結末は、いつ読んでも(舞台を観ても)スッキリするものではありません。

現実でも人種問題・移民問題がスッキリした結末を迎えるなんてことは、残念ながら難しそうです。

白人プロデューサー・マネージャーもいわゆる「悪役」という感じではありませんでした。一儲けしたいという下心を持ちながら、面倒なことに振り回されている「どこにでもいる面白いおっちゃん」でした。悪気があるわけでなく、「たまたま白人に生まれて、たまたまこの仕事をしている」という印象。

善悪がはっきり分かれない・スッキリしないのが、この劇のいいところなんじゃないかと思います。「あぁスッキリした」で終わる作品より、「7年間何度も読み、分析してもまだ考えさせられる」作品の方が私は好きです。

 

セリフはもとの台本とほぼ同じだったと思います。全員イギリスの舞台・テレビで活躍している俳優さんでしたが、方言指導の先生がついていたようで、差別用語も含め原作のままでした。

会話のテンポが速くてコミカル。所々しんみりしてしまう場面もありますが、笑いが起こるシーンもたくさんありました。

しかし何度も台本を分析してきた身としては、人種がテーマの作品で、この場面で、果たして笑って良いものか?と戸惑ったシーンがあったのも事実です。

近くに座っていた黒人の男の子は大爆笑していましたが…

 

ちなみにディレクターはDominic Cookeというイギリス人で、シェイクスピアなど数多くの作品を手掛けています。批評家がどう見るかはわかりませんが、非常に原作に忠実な印象を私は受けました。今後はベネディクト・カンバーバッチがリチャード3世を演じるTVシリーズ・The Hollow Crown: The War of Rosesの監督をされるようです。

 

それにしてもなぜNTはこのタイミングでMa Raineyを上演することにしたのでしょうか。

その答えが聞けそうなイベントが。なんと、ディレクターのDominic Cookeによる講演があるそうです。お値段4ポンド、行ってきます!

 

NTでは2月末に、リーズ大学の先生を呼んでアフリカ系アメリカ人劇作家についての6時間のレクチャーもするそうです。
こちらは70ポンド。ちょっと厳しいなぁ…


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